「VR」という言葉が今ほど当たり前ではなかった2003年、Apple社の「QuickTime VR」をプラットフォームとした360度パノラマを作り始めました。粗く、小さく、つぎはぎの目立つパノラマでしたが、これはこれで苦労もあり、自分としてはたいそうご満悦でした。
しかしその2年後、海外サイトで高画質・大画面・全方位つぎはぎもない完璧なパノラマを見せつけられます。別世界でした。デジタル一眼レフカメラと制作環境の劇的な進歩がもたらした革命で、海外のクリエーターたちはいち早く作品に取り入れていたのです。あまりの衝撃の大きさに、逆に「もうやめた」と、パノラマ作りを投げ出してしまったほどです。
理由はいまだによく分かりませんが、諦めきれなかったようで、日本語の情報が極めて少ないなか、ググっては英語サイトとの格闘を繰り返し、機材と制作環境を揃え、撮り方やソフトの使い方を一つずつマスターしていきました(なのに英語力の方は全く向上していないのはなぜでしょう…?)。そして2007年、当サイトをスタートさせることができました。
その後、Googleのストリートビューが瞬く間に普及していき、360度パノラマの利用は身近なものになりました。機械的に大量に撮って処理し、あまねく道々を見られるようにする…。これはこれで大変便利で、私もよく利用します。また、リコー社から「THETA(シータ)」が販売されたことを契機に、360度パノラマは撮ることも身近になりはじめています。
撮ること、写真として仕上げること、これらが機械やWebサービスに取って代わられていくのは、必然的な流れなのでしょう。それは私がパノラマを作り始めた当初から予想できたことです。だからこそ、FullScreen.jpでは機械では賄えない部分、すなわち「心動かされるかどうか」を価値基準としています。そのため、画質を確保するために一番面倒くさい方法で撮影し、一番面倒くさい方法で制作しています。
ディスプレイの性能が向上するにつれ、この方向で間違っていなかったと思います。2017年1月現在、27インチ「iMac Retina 5K」で、10年前に作った360度パノラマをフルスクリーンで楽しめています。
「VR」というと、その場に行けない代替手段と思われるでしょうか。私は良い写真を見たとき「そこに行ってみたい」と思います。FullScreen.jpでは「足を運びたくなる」ことを目的としています。
「心動かされるかどうか」の価値判断すらも、やがてAIに取って代わられるのでしょう。それまではこの面倒くささに立ち向かい、楽しみ続けたいと思います。